「伝承の復元」を巡る問題点確認のための資料の一つとして、 次の本を1〜2年かけて読みます。常に作成中です。

過去を復元する : 最節約原理,進化論,推論 / エリオット・ソーバー著 ; 三中信宏訳. -- 蒼樹書房, 1996
Reconstructing the past : parsimony, evolution, and inference / Elliott Sober. -- MIT Press, 1988

『過去を復元する : 最節約原理,進化論,推論』用語集(更新5.12)

[日本語版への序文]

単純性(simplicity)
最節約性(parsimony)

[序言]

系統推定(phylogeny estimation)
変化を伴った由来(descent with modification)
最節約性(parsimony)
分岐学(cladistics)
尤度(likelihood)
攪乱変数(nuisance parameters)
相互観照(reciprocal illumination)

[第一章:生物学からみた系統推定問題]

1.1過去について知るためには

将来予測(prediction)
過去予測(retrodiction)

情報破壊的(information destroying)プロセス
平衡状態にある(equilibrate)
情報保存的(information preserving)プロセス

 

1.2パターンとプロセス

血縁推定(genealogical inference)
系統推定(phylogenetic inference)

由来関係(begetting)

特性(trait)

木(tree)

注5
Platnick, N.,and Cameron, D.[1977];Cladistic methods in textual,linguistic,and phylogenetic analysis. Systematic Zoology 26:380-385.

網状(reticulate)

二次的借用(secondary borrowing)

遺伝子流動(gene flow)

体系学(systematics)

分岐学者(cladist):分類の基礎は血縁関係だけ
表形学者(pheneticist):系統的近縁性ではなく全体的類似性(overall similarity)のみにもとづいて分類すべきであると反論
進化分類学者(evolutionary taxonomist):分類は血縁関係と適応的類似性の両方を反映すべきであるという立場

体系学者
パターン(pattern):種間の祖先子孫関係(進化的類縁関係)
プロセス(process):系統発生の過程での変化の原因に関するさまざまな因果的説明:「そういう種分化がなぜ生じたのかという質問は、プロセスの問題」「その進化的新形質がなぜ生じたのかは、プロセス論の問題」

プロセス仮定(process assumption)

共通起源(common ancestry)

論理的強度(logical strength)
「少ないほど多くなる」(less is more)

形質分布データ+プロセス仮定→系統発生パターン

演繹する(deduce)
「逆行決定論的」(backward deterministic)なニュートン物理学
プロセス理論がもともと確率論的(probabilistic)であるとしたら、そのような演繹は決してできない

系統仮説の
相対的な確証度および非確証度(degrees of confirmation and disconfirmation)

系統発生パターン(phylogenetic pattern)の仮説とは種間の系統関係を特定するもの
進化プロセス(evolutionary process)の仮説とは系統樹に見られる類縁関係と形質の説明を提示するもの

形質分布データ+推論方法→系統発生パターン

体系生物学者(systematic biologists)

 

1.3対象と属性

類似性(similarity)

表形主義(pheneticism)

全体的類似性(overall similarity)
特殊類似性(special similarity)←分岐学的最節約法(cladistic parsimony)

単系統群(monophyletic group)

分岐群(clade:ギリシア語で「枝」という意味)

単系統性の判定は対比的(contrastive)
すなわち、2つの対象がある単系統群に属すると判定されるときには、
必ずその群に属さない第三の分類対象と対比されている。

近縁種(relatives)

分岐図(cladogram)
系統樹(phylogenetic tree)

分岐図と系統樹の例
(AB)Cの分岐図は1つ
(AB)Cの樹形図は6つ

系統樹は分岐図を導くがその逆は真ではない。
分岐図では分類群は枝の末端にのみあるが、
系統樹では末端だけでなく分岐点や根にも分類群が位置することがある。

□クラスター分析が作るのは・・・

系統推計の例(1-51は形質 ABCは種)
系統樹の末端点からA、B、Cの3つの種を抽出した。
祖先的(ancestral)あるいは原始的(plesiomorphic)な形質状態を0、
子孫的(derived)派生的(apomorphic)な形質形態を1と置く。

この3種を調べ、各形質ごとに原始的状態と派生的状態のどちらを持っているのかを決める。
そのためには形質の方向性(polarity:どれが原始的でありどれが派生的なのか)を知らなければならない。

  種A 種B 種C
1-45(45形質) 1 0 0
46-50(5形質) 1 1 0
51(1形質) 0 1 1

1-45は共有原始形質(symplesiomorphy)
46-50と51は共有派生形質(symapomorphy)

共有原始形質(symplesiomorphy):原始的状態の共有による類似性
共有派生形質(symapomorphy):派生的状態の共有による類似性

全体的類似度法に基づいて系統推計をするならばA(BC)という仮説が最も強く支持される。
(51を除いて1-50の類似度を見ると、BとCは90%、AとBは10%、AとCは0%)

分岐学的最節約法は、形質1-45(原始形質共有)は無視し、形質46-50(派生形質共有)だけを考察の対象とし、
(AB)Cが真の系統仮説であるという結論に達する。

系統内進化(phyletic evolution)向上進化(anagenesis)

系統樹は種が出現した時間的順序を表現しているだけであって、それらの種がいつ消滅したかについては何も言っていない。

全体的類似度法は共有派生形質と共有原始形質に同等の重みづけをする。
分岐学的最節約法は共有派生形質だけを系統関係の証拠とみなす。

全体的類似度法は、共有派生形質と共有原始形質のどちらにも同じ重みを与えるので、ある形質のどの状態が原始的であり、どれが派生的であるかを決める必要がない。一方、分岐学的最節約法は、この2種類の共有制についての証拠としての価値は根本的に異なるという見解に立っている。したがって、分岐学的最節約法を用いるときには、各形質についてどの形質状態が原始的であるのかを確認しなければならない。種ゼロの形質状態は、直接観察すればわかるわけではなく、推定されるものである。この推定、すなわち形質の「方向性」の決定をどのようにして行うかについては、第六章で・・・。

 

1.4形質不整合とホモプラシーの問題

分岐学的最節約法の主張
:共有原始形質ではなく共有派生形質が系統関係の証拠
:進化的変化の回数が最小である仮説が最良
(この二つの定式化は等価)
:最良の系統仮説はホモプラシー(homoplasies)が最小

ホモロジー(相同:homology):2種の共有するある特性が、一方の種から他方に受け継がれたものかまたはその特性をもつ共通祖先から変化することなく遺伝されたものならば、その種の特性は他種の特性とホモロジーの関係にあると呼ばれる。

ホモプラシー(非相同:homoplasy):類似特性が別々の起源に由来するものならば、その共通特性はホモプラシーとされる。

(AB)Cは形質51についてホモプラシーを想定しなければならない。
A(BC)は形質46-50についてホモプラシーを想定しなければならない。
したがって(AB)Cの方が最節約的。

形質はある群を演繹的に導く(deductively imply)するわけではない。

最節約法のこの原理は必要条件ではなく十分条件でしかない。

ホモロジーとかホモプラシーなのは、形質そのものではなく、形質の一致(match)。
例えば「胎生」は哺乳類の中(例えばヒトとチンパンジー)ではホモロジー。
爬虫類と魚類に関して言えば「胎生」は独立に進化したもので、それらの一致はホモプラシー。

共通原因の原理(the principle of common cause)


[第二章:哲学からみた単純性問題]

本章では、系統推定に固有の問題はほとんど言及されていない。

2.1局所的最節約性と大域的最節約性

2.2 2種類の非演繹的推論

2.3 存在論としての凋落

2.4 方法論としての批判

2.5 ワタリガラスのパラドックス

2.6 Humeは半分だけ正しかった


[第三章:共通原因の原理]

3.1 表形学の2つの陥穽

全体的類似度(overall similarity)から真の系統関係が推定できない理由
1.ホモプラシー
2.固有派生形質(autapomorphy)
全体的類似度は派生的類似性だけでなく原始的類似性をも含んでいる。
そのためにこの二つの陥穽におちいる危険性がある。

3.2 相関・共通原因・濾過

3.3 存在論からの1問題

3.4 認識論からの諸問題

3.5 尤度と攪乱変数の問題

3.6 結論


[第4章:分岐学:仮説演繹主義の限界]

4.1 生まれ出る問題

最節約概念の定式化

1.caminとsokal(表形学):最節約法を否定

caminのcaminalcules
1960年代の前半に、caminはある架空の生物群の絵を描き、
わざと不完全なトレースによってそれらの絵を次々に写しとるという擬似的な進化にもとづいて、進化プロセスをシミュレート、
カンザス大学の同僚たちに彼が作った架空生物から系統関係を推定せよという問題を出した。
「実際の分岐関係(cladistics)に最もよく似ていたのは、つねに、調べた形質の想定される進化ステップ数が最小である系統樹だった」

2.cavalli-sforzaとedwards(統計学):最節約法に慎重
系統復元を統計的推定の問題として考察。目標は尤度の観点から系統仮説を比較すること。
最小進化原理(principle of minimum evolution) 「進化の総量が最小となる推定進化樹が最も妥当である」

3.willi hennig
全体的類似度を批判。系統復元の手がかりとして共有派生形質(synapomorphy)を用いるべきであると主張。


形質の分布は、一致する状態が原始的だろうが派生的だろうが、けっして系統関係を演繹できない。
その理由は、ホモプラシーを排除する単純なプロセスモデルが明らかにまちがっているからである。

4.2 反証可能性

進化:あらゆる生命(すなわち分類群)は、ある共通の起源から自然のプロセス(遺伝、変化、分化)によって生み出されてきた。
共有派生形質:新しい分類群は新しい形質によってしばしば特徴づけられる。

これらの緩い進化上の仮定と大域的最節約性を受け入れるだけですぐにも分岐学的節約法が導けると仮定されている。・・・。

橋渡しとなる論証は
・反証(falsification)の概念を用いる論証
・アドホック性(adhocness)による論証

1.反証(falsification)の概念を用いる論証
対象分類群の形質分布が与えられると、対立する複数の系統樹が構築できる。
それぞれの系統樹が観察された形質分布パターンを生むために最低いくつのホモプラシーが必要かを数える。
ある系統仮説が要求するホモプラシーはそのひとつひとつがその仮説への反証となっている。
データからの反証がもっとも少ない-すなわちホモプラシーがもっとも少なくてすむ-系統仮説が、最も強く支持されている仮設である。

2.アドホック性(adhocness)による論証
ある系統仮説のもとで与えられた形質がどうしてもホモプラシーとなるとき、それはこの系統仮説が認めざるを得ないアドホック仮定である。
アドホック仮定をできるだけ避けるのが科学的方法である。
したがって、必要なホモプラシーの数がもっとも少なくてすむ系統仮説はアドホック性がもっとも少ない。

※便宜上、以下の議論では、対象分類群がすべて末端にある系統樹について話を進める。

(形質の重み付け)
各形質が証拠としてたがいに独立かつ等価ならば、ホモプラシーを数えさえすればよい。
分岐学的最節約性を含むあらゆる方法が適用される前に形質は重み付けられなければならない。
しかし、最節約法それ自体は重みづけをどうすべきかについては何も言っていない。

分岐学に反対する多くの批判者は、ある形質によって反証された系統仮説は実際に偽であると考えている。

0は原始的、1は派生的

分岐学派は派生的類似だけが系統仮説の確証(confirm)を与えると主張するが、
言い換えれば、それはホモプラシーだけが系統仮説に反する証左となる(disonfirm)ということである。

形質と単系統群の関係を説明する図。
新形質は新しい群が出現した標識となる。しかし、その単系統群に属する必要十分条件を与えるという意味で、その形質が単系統群を定義しているわけではない。
(同じ単系統群のなかでその新形質は失われる可能性がある。だからこそ体毛のない哺乳類の種もやはり哺乳類に属しているのである。等々。)

ホモプラシー:例えばコウモリと鳥の「翼」はホモロジーではなくホモプラシー

類似性はつねに多くの差異とともに認識される。
「細かく調べれば、どんな類似性も認識されなくなる」というのでは・・・