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 □「セイキロスさんとわたし」 no.08

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■私は石碑です

前回は「元資料」である石碑の行方をたどりました。

今回はこの石碑そのものに注目して、
「石碑を介したやりとり」を実習したいと思います。

重みのあるひとつの石碑に
「ギリシア語」(前書き・うた・後書き)と、
ギリシア語読者にも何を意味するのかわからない
「旋律・韻律のしるし」が刻まれて・・・

石碑を介してなされるやりとりは様々です。
街中で石碑に触れる、うつす、碑文を刻んでもらう・・・
あるいは触れられることなく埋もれていく石碑・・・


■石碑のデータ

1.素材

灰色がかった大理石(もっと暗い灰色の鉱石の縞が入っている)
(*)資料を収蔵している博物館の方による

2.大きさ

高さ 61cm
頭部幅 20.5cm
底部幅 25.5cm
(*)資料を収蔵している博物館の方による

3.石碑に刻まれた文字の特徴

次の資料(p.90)によると・・・
Documents of ancient Greek music
: the extant melodies and fragments
edited and transcribed with commentary
/ by Egert Pohlmann and Martin L. West.
-- Clarendon Press, 2001

「碑文の銘(刻まれた文字)から紀元2世紀に刻まれたものと推定できる。
特徴は
・多くの燕尾型の(2つに割れた)筆頭・筆末、特にΕ、Μ、Ν、Σ。
・下に線がはみ出たほとんど(逆)三角形のΦ、
・ΝΗΜの連結(ΝとΗ、ΗとΜ、ΜとΗ、ΗとΝが合字に)、
・そして何よりもΩの独特の形。
これらは127/8年、149/50年の日付を持つ碑文(スミルナ出土)
に認められる特徴である。」

今回はまず、これらの特徴を、
フランスのヴェベールさんが石碑から制作した拓本
(石碑などに刻まれた文字や模様を紙など押し当てて写し取ったもの)
を元に、ドイツのクルシウスさんが制作した、
輪郭のはっきりした絵を丁寧に観察して、確認してみましょう。
Crusius,O.,'Zu neuentdeckten antiken Musikresten',
Philologus 52,1893,160-200


■石碑の夢・・・

一度絵から離れて、
また見えるところまで近づきながら、
石碑の声に耳を傾けてみましょう。

そして石碑に助けてもらいながら、
そらで言って歌えるようにしてみましょう。

例えば街中を歩いていて・・・

ひきつけられるままに近づいてみると・・・
「私」からの挨拶・・・

不滅の思い出の<しるし>として、

不滅の思い出がここに現われる時を・・・
何10年、何100年後に、
ここを訪れる人たちと一緒に歌っている・・・
その時を夢見ている、そんな挨拶に惹かれて・・・

(*)参考

□前書き(石碑の自己紹介)の訳例

私は石碑です。
εικων ‘η λιθοσ ειμι・

セイキロスさんが私をここに建ててくれました、
τιθησι με Σεικιλοσ ενθα

不滅の思い出の、長く生きのこる<しるし>として。
μνημησ αθανατου σημα πολυχρονιον.


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文字化けする場合はPDF版の原文テキストをご覧ください。


□うたの訳例

生きている限りは 輝いていて下さいね
‘οσον ζησ   φαινου・

あなたは決して決して 悲しんではだめですよ
μηδεν ‘ολωσ συ   λυπου・

僅かなんですから 生きている時間は
προσ ολιγον εστι   το ζην・

終りを時間は 求めているんですから
το τελοσ  ‘ο χρονοσ απαιτει.


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■私=石碑になって・・・

実習です。
日本語訳を追いながら、
通してギリシア語で言ってみましょう。

1.私=石碑になって、
気晴らしに文字を覗き込んでいる通りすがりの人に、
面と向かってよくわかるように自己紹介してあげましょう。

(内容は次のとおりです)

私は石碑です。

セイキロスさんが私をここに建ててくれました、

不滅の思い出の、長く生きのこる<しるし>として。


2.自己紹介が終わったら、うたを教えてあげましょう・・・

(内容は次のとおりです)

生きている限りは 輝いていて下さいね

あなたは決して決して 悲しんではだめですよ

僅かなんですから 生きている時間は

終りを時間は 求めているんですから


3.ついでに欠落した後書き部分も読んであげましょう。

(内容は次のとおりです)

セイキロス・・・

   生き・・・(以下欠)

Σεικιλοσ ευτερ 

     ζη


4.うたがそらで歌えるようになったら、
次のアルファベットのしるしと音高との対応を確認しながら、
一緒にうたってあげましょう・・・

(単語の切れ目で切りそろえて、かつ4行にまとめてみました)

ΣΖΖ ΚΙΖΙ

ΚΙ ΖΙΚ Ο ΣΟΦ

ΣΚΖΙΚΙΚ ΣΟΦ

ΣΚΟ ΙΖΚ ΣΣΣΧ┐


(以下演習4の補足)

□このアルファベットのしるしと歌詞との対応については、
このしるしの上に更に「韻律のしるし」
(長短記号・強調記号・・・)のついているクルシウスさん制作の絵参照です。
(「το τελοσ」の「τε」の上に「ΣΚΟ」の「Κ」を付け足して)

□ドレミと逆に、ギリシア語アルファベットは、
終りに近づくほど音が下降していきます。(ザックスさん等による)

従って、
上のアルファベットのしるしを見たときに判断すべきことは・・・
1.アルファベット全体のどのあたりに位置するかを判断する
2.順番が前の方なら音高が高い、後の方なら音高が低いと判断する。

□ギリシア語のゼータ(Ζ)は、
ギリシア語アルファベットの前から6番目、
比較的初めの方にあるので要注意です。

今回の資料ではこのΖが一番高い音(高いミ)、
Ι(Κ)がそれに続く高い音、
最後のΓの鏡像の┐が一番低い音(低いミ)、
というあたりを
さしあたりおさえておくといいかもしれません。

音階確認機による確認
1行目が開放弦の行、
2-3行目が弦を押さえて演奏するシャープ音の行です。

まず今回使われている音階
ΖΙ(Κ)ΟΣΦ(Χ)┐
を弾いてみましょう。

ΚとΧはシャープ行にあるので半音高くなっています。

初めにマウスで楽譜を叩くとキーボードからも入力できます。
キーボードでは例えば次のキーになります。
WE(V)(真中2列は空けてあるので飛ばして)UIO(?)@・・・

左手の薬指(Wのキー)から始まって、
右手の小指(?のキー)→右手の小指(@のキー)で終わります。

うたも弾いてみましょう。
キーボードでは、ΣΖΖ・・・は、例えば、
右手の中指(Iのキー)→左手の薬指(Wのキー)→左手の薬指(Wのキー)
という感じです。

□重要な切れ目の頭、
気持ちを込めて丁寧に弾くべきところに置かれている、
この右手の中指(Iのキー)のΣの音は、
弾くときにも歌うときにもいいポイントになるかもしれません。
このΣは元資料や絵ではCのように描かれています。


■次回は和文希訳試験(約2週間後12月12日予定)、
次々回以降に元資料の絵や写真等も使って、
碑文の特徴について、楽譜の書き取り等々、
もう少し踏み込んだ試験に取り組む予定です。

まず日本語を見ながらギリシア語で言えるようにしておきましょう。

参考:「セイキロスさんとわたし」資料置場


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